日本各地の“アート”による地域づくりを紹介!~参加することで見える、地域の新たな魅力~

(TOP画像:『忘れられた画家』ユアサエボシ 撮影:Katayasu Fujita)

みなさんは、現在、各地で“アート”による地域づくりが行われていることをご存じですか?

“アート”による地域づくりとは、その地域の特色や魅力を、“アート”によって発信していく取り組みで、近年、SNSなどでこれらのイベントを知った人々が多く訪れています。
具体的な取り組みの内容は地域によって異なりますが、どの取り組みもその地域の特徴を生かした個性豊かで、魅力的なものばかりなんです!

また、こうした地域づくりの中には、私たちが参加することができるものもあるんです。地域の方と直接関わることで、新たな魅力を発見することができるかもしれません。

今回は、各地で行われている取り組みの中から、3つ選んで紹介していきます。一緒に“アート”による地域づくりの世界を見ていきましょう!

1 “アート”による地域づくりとは?そのメリットは?

まずは簡単に“アート”による地域づくりについて説明していきます。

アートプロジェクト(アートによる地域づくり)とは、「アートを媒介に地域を活性化させようとする取り組み」のことを指します。(http://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/pdf/2015/14/a1160460.pdf

これらの取り組みは、「アーティスト」、「地域住民」、「地域外からのボランティア」の協力によって実施され、若者をはじめ、多くの人を呼び寄せる効果があります。これにより、観光地としての新たな魅力が高まり、観光客が増加することで、宿泊業など「観光産業」が活性化します。

また、地域経済にとってプラスになるだけでなく、地域住民にとっても来訪者との交流や地域貢献が「高齢者」の福祉や生活の質にプラスに働くのでは、と期待されているんです。

2日本で行われている“アート”による地域づくり

では、実際に日本で行われている“アート”による地域づくりは、どのようなものなのでしょうか。

大きく分けて、二つの種類に分類することができます。

一つ目は、一定の期間を定めて、イベント的にアート作品の展示を行うものです。
具体的には、三年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭」や「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟県十日町市津南町)、二年に一度開催される「中之条ビエンナーレ」(群馬県吾妻郡中之条町)などが、これらに該当します。

二つ目は、地域の人々の暮らしの中にアートを取り入れ、日常的に様々なプログラムを行うものです。
具体的には、アートを取り入れた様々な取り組みを実施している「NPOアートフル・アクション」(東京都小金井市)や、廃校を利用して様々なイベントを開催している「studioこぐま」(山形県西置賜郡小国町)などが、これらに該当します。

“アート”による地域づくりは、それぞれの地域の特徴に合った方法で行われているのです。

3日本各地で行われている“アート”による地域づくりの事例

それでは次から、具体的な各地の“アート”による地域づくりの「概要」「特徴」「参加方法」を、紹介していきます!

3.1 廃校が“アート空間”に!「おおやアート村 ビックラボ」(兵庫県養父市大屋町)

「おおやアート村 ビッグラボ」

( 廃校を利用して作られた「おおやアート村 ビッグラボ」)

【概要】
「おおやアート村 ビックラボ」は、自然豊かな兵庫県養父市大屋町で行われている、「廃校」を活用した取り組みです。

「おおやアート村 ビッグラボ」

(学校のつくりをそのまま残した施設内)

「おおやアート村 ビッグラボ」

(アート体験の様子)

【特徴】
大屋町の“地域資源(自然・モノ・コト・人など)”と“芸術資源”を新しいまちづくりに結びつける「おおやアート村構想」のもと、廃校を活用し、手作りの体験や、アート作品の展示を行っています。
また、作り手とお客様の交流を目的に、ハンドメイドの雑貨や、おもちゃ、アート作品やアクセサリ―の販売する、「大屋手づくり市」も開催されています。

【参加方法】
開催されるワークショップに参加してみたり、公募展を観覧したり、カフェでゆっくり寛いだりと、参加の仕方は様々です。

「おおやアート村 ビッグラボ」

(多くの人で賑わう大屋手づくり市の様子)

●「おおやアート村ビッグラボ」(http://biglabo.com/

3.2 見慣れた風景をアート作品に。「取手アートプロジェクト」(茨城県取手市)

取手アートプロジェクト

(人の“とくい”(得意なこと・特異なこと)を預かり、引き出すことができる「とくいの銀行」。様々な企画を実施しており、多くの人が参加している。)

取手アートプロジェクト

(とくいの銀行)

取手アートプロジェクト

(とくいの銀行)

【概要】
「取手アートプロジェクト(TAP=Toride Art Project)」は、地域の人々と取手市、東京芸術大学の三者が共同でおこなっているアートプロジェクトです。

取手アートプロジェクト
取手アートプロジェクト

(壁面にユニークな世界が広がる、アーティスト・上原耕生によるプロジェクト「IN MY GARDEN」)

【特徴】
日常風景の中に“アート”を取り入れるプロジェクトや、地域の人々が交流する機会を、様々なかたちで提供するプロジェクトを実施しています。

【参加方法】
取手アートプロジェクトは、プロジェクトを一緒につくっていくボランティアスタッフも募集しています。興味のある方は下のURLからサイトをチェックしてみてくださいね。

●「取手アートプロジェクト」(https://toride-ap.gr.jp/

4実際に行ってみた!「中之条ビエンナーレ」

中之条ビエンナーレ

(『Still living with the shadow of lives ―今も尚彼らはー』山形敦子 撮影:Miho Nishikata)

最後に、私の地元である群馬県中之条町で開催されている「中之条ビエンナーレ」を紹介していきたいと思います。
また今回、イベントが行われる中之条町に行き、総合プロデューサーを務める山重徹夫さんにお話を伺いました。

4.1 群馬の山奥で開催される自然とアートの祭典「中之条ビエンナーレ」(群馬県吾妻郡)

中之条ビエンナーレ

(『四万あかり』山重徹夫&地元のみなさん)

【概要】
「中之条ビエンナーレ」は、群馬県中之条町で、二年に一度開催される国際芸術祭です。

【特徴】
国内外からの様々なアーティストによるアート展示、演劇、身体表現などのパフォーマンス、ワークショップ、マルシェなどを開催します。

中之条ビエンナーレ

(『教室/1988』村上郁 撮影:Kenta Onoguchi)

中之条ビエンナーレ

(『中之条みんなの美術部』YORIKO 撮影:Fumihito Nagai)

中之条ビエンナーレ

(通運ビル ショップ)

【参加方法】
中之条ビエンナーレは、様々なかたちでイベントと関わるボランティアを募集しています。私も、「何かしらのかたちで、中之条ビエンナーレに携わりたい」と思い、ボランティアに登録をしました。

アーティストの方々が制作をしている貴重な様子を見ることができたり、地域の方々と触れ合えたりと、地域について学ぶことができるとても良い機会なので、気になる方は是非登録してみてください!

●「中之条ビエンナーレ」(https://nakanojo-biennale.com/

4.2 総合プロデューサー山重さんへのインタビュー

山重徹夫さん

(山重徹夫さん 四万にある竹葉館の入り口にて)

私は以前、地元で行われている中之条ビエンナーレに行き、そこで、温泉街や廃校を利用したアート作品の数々を目にしました。昔から見慣れていた空間が、アートによって、異空間へと変化していたのです。町の自然や人々の温かさを活かしたアート作品による町の変化に、強く感動し、そこから地域に関心をもつようになりました。

今回、その「中之条ビエンナーレ」の総合プロデューサーを務める山重徹夫さんにお話を伺いました。

プロフィール
山重さんは、広島県出身で、現在は群馬県に移住されています。美術大学を卒業後、都内デザイン会社で制作ディレクターをされた後、独立し幅広いメディアでデザインワークを担当されています。2006年より、地域独自の視点から芸術文化を発信することを目的に、中之条ビエンナーレを立ち上げ、総合ディレクターをされています。

【アーティストの“制作の場”としての中之条町ビエンナーレの存在】

中之条ビエンナーレ

(『空に響く』山口信哉 撮影:Miho Nishikata)

プロデューサーとしてだけではなく、アーティストとしても活動されていた山重さんは、自分を含めたアーティストの“制作の場”があったら…という想いをもっていました。そんな時、友人の紹介で、中之条町にある廃校に訪れ、しばらくの間滞在しました。

竹葉館

(まるで時間が止まったような竹葉館の客室の一角。今回のビエンナーレでは、この竹葉館をはじめとする四万温泉エリアを、「アーティスト・イン・レジデンス」の場として活用するという。)

【地域の人々との関わりの中で芽生えた想い】

滞在中、地域の方々が野菜などをもってきてくれたり、声をかけてくれたり、とても温かく迎えてくれたそう。「この地域の人たちに自分達の作品を見てもらいたい」という想いを抱き、それが中之条町ビエンナーレの開催のきっかけとなった、といいます。

「地域づくり」で「アート」を選んだのではなく、「アーティスト主導」で「自分達で制作して、それを発信していく」ことが最初の目的であり、それが、“アート”による地域づくりへと繋がっていったそうです。

【アーティスト・イン・レジデンス】

中之条町ビエンナーレの取り組みの一つに、「アーティスト・イン・レジデンス」があります。皆さんはご存じでしょうか?

中之条ビエンナーレ

(古民家で制作をするアンディ・デイヴィスさん)

「アーティスト・イン・レジデンス」とは、アーティストの滞在型創作活動、またその活動を支援する制度です。アーティストが異なる文化や歴史の中での暮らしや、現地の人々との交流を、新たな創作の糧としていく活動で、各地で実施されている取り組みです。(https://www.nettam.jp/course/residence/1/

中之条町ビエンナーレでは、この「アーティスト・イン・レジデンス」を取り入れており、それによって、地域の人々と、国内外からのアーティストとの間に、強い絆が芽生えているといいます。
こうした取り組みは、地域づくりにとって重要な、地域全体が、外からの人々や新しいものを受け入れる姿勢をもつこと、理解を深めることにも繋がるそうです。

中之条ビエンナーレ

(『Three light diffractions』三好由起 撮影:Kenta Onoguchi)

最初に挙げた、“アート”による地域づくりのメリットとされている「観光地として新たな魅力が高まるだけでなく、地域の方と来訪者の方との交流が生まれる」ということが、実際に中之条町で起こっていたのです。

さらにそれが、新たな人と人とのつながりを生み、人々の生活をより豊かなものにしていました。

5まとめ

今回、日本各地の“アート”による地域づくりを調査し、どの地域もその土地の特徴を生かした個性豊かなものばかりで、さらに興味が湧きました。
また、こうした取り組みを運営している立場の山重さんからお話を伺い、多くの人々の地域を愛する想いによって成り立っていることを知りました。

そして今回感じたことは、“アートに興味がない人”にこそ、こうした取り組みがあることを知ってもらい、一度足を運んでみてほしい、ということです。

今回の記事作りを通して、自分の目で見て、話を聞くことでしか得られないものが多くあることを強く感じました。

山重さんのお話にもあったように、“アート”による地域づくりは、地域の人々と外からの人々との新たなコミュニティが生まれることこそが魅力であるといえます。
こうした取り組みに実際に参加し、地域の人々をはじめ、様々な人と触れ合うことで、自分にしかできない“地域とのかかわり方”を発見できるかもしれません。

私は今回、ずっと興味をもっていた「中之条ビエンナーレ」の総合プロデューサーをされている山重さんにお話を伺い、そして、実際にアーティストの方が制作をしている様子を見学し、中之条ビエンナーレに更に関心をもつようになりました。

また、山重さんの考えや、“アート”と“地域”に向き合う姿勢を知ることを通して、自らの人生や生き方、キャリアについて考えることができました。

みなさんも、一歩勇気をもって、“アート”による地域づくりの世界に踏み込んでみませんか?