すこしずつ関わりを大きくしていく。「まちづくり」と「仕事」をつなげる新しい選択肢。

地域活性化・まちづくり。そんな言葉が広まり、私たちのような若い世代でも「地域やまちづくりに関わりたい!」といった声を頻繁に聞くようになりました。

HATAFURIでは以前、そんな「地域」「まちづくり」に関わる仕事について、「就活生の9割が知らない!? 公務員だけじゃない、地域・まちづくりに関わる仕事とその違い。」のなかで簡単に紹介させていただきました。

しかし、「実際に地域やまちのために働いている人ってどんな人なの?」「公務員や会社で働くことはなんとなくイメージできるけどNPOとかはよくわからない」といった疑問や想いを抱く人はまだまだ多いのではないのでしょうか。

今回はそんな想いを晴らすべくNPO法人「大ナゴヤ大学」を訪問し、理事長である大野嵩明さんに、ご自身のはたらき方や「まちづくり」との関わり方についてお話を伺ってきました。みなさんのこれからのキャリアやくらし方について考えるきっかけになれば幸いです。

大野嵩明さん 「大ナゴヤ大学」事務局(理事長)  名古屋西区出身。大学院卒業後、地元に貢献したいという想いから地元のベンチャー・キャピタルに就職するも、もっと地域に密着した仕事がしたいとNPO法人「ETIC.」のプログラムに参加。インターン先である石川県七尾市のまちづくり会社での活動を経て地域の魅力を伝える楽しさを知り、名古屋で活躍中。

「大ナゴヤ大学」とは。NPOとお金の仕組み

それではまず、「大ナゴヤ大学」について、そしてNPOとお金の仕組みについて簡単に紹介したいと思います。

「大ナゴヤ大学」とは

「大ナゴヤ大学」(正式:「特定非営利活動法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワーク」)は名古屋を拠点とし、「街がまるごとキャンパス」&「誰でも先生、誰でも生徒」をコンセプトに、まちのユニークな方を先生に迎え、地域の資源(人、モノ、場所)を活かした授業を実施しています。(http://dai-nagoya.univnet.jp/subjects/past/

授業の形式は多様。先生と一緒に名古屋の街歩きをしたり、ワークショップをしたり、先生のお話を聞いたり。

左上:「長良川の手仕事 和傘ナイト」
右上:名古屋の”記憶”を巡るツアー
左下:しごとバー「僕らの働き方の話をしナイト」
右下:都市にいながら村を作る-ナゴヤの空き家問題と新しい生き方のつくりかた-

ナゴヤに住む・働く・遊びに来る人に向けて、この街のヒト・モノ・コト・バショを活かした学びあいの場をつくることで、新たな人のつながりを育む場をつくっています。

起源

そもそもの起源は東京ではじまった「シブヤ大学」さん。「シブヤ大学」の”地域の興味・関心で人が集まるコミュニティカレッジ”という新しいコミュニティづくりのかたちに、ナゴヤに縁のある人たちが感化され、そのノウハウを名古屋にも広めよう!と動き始めたことが「大ナゴヤ大学」創立のきっかけだそうです。現在では、「大ナゴヤ大学」を含め、全国9つの地域に姉妹校が存在しています。

どんな人が働いてるの

「大ナゴヤ大学」ではたらく方々のほとんどはボランティアスタッフのみなさん。運営スタッフや授業コーディネーターと呼ばれる授業を企画するスタッフとしての参加が主な関わり方となっています。

ただ、ボランティアスタッフといっても全くお金をもらっていないというわけではありません。1つの企画で〜円というかたちで給与を得ることも可能です。みなさんもぜひ参加してみてはいかがですか。

NPOとお金の仕組み

ここで「非営利」と呼ばれるNPOにおいて、みなさんが一番気になるであろうお金の仕組みについて簡単に説明させていただきたいと思います。(細かい部分で誤り等あるかもしれませんので詳しく知りたい方は参照のURLなどでお調べください)

給与

まず「給与」について。NPOは、活動で得た”収益”を役員や社員に分配してはいけませんが、給与は“経費”に含まれるため”収益”にはあたらず受け取ることができます。

つまり、「補助金や活動で得た資金−経費(給与も含む)」でお金が余った場合、そのお金(収益)は分配しちゃダメだよ、来年に繰り越してね。という仕組みになっています。これがNPOの「非営利」という意味ですね。

役員報酬

また、NPOには運営責任をもつ役員(理事や監事など)がいますが、役員の総数の3分の1までは「役員報酬」を受け取ることができます。ただ、一般の企業だと全ての役員が報酬を受け取ることができるので、NPOではその点において制限があるということになります。

実際には「NPO」といってもその仕組みや活動は多様化していますし、お金の仕組みについても組織の体系についても一括りにすることはできません。とても複雑で難しいですが、ここではとにかく、「NPOであっても全くお金がもらえないというわけじゃないんだ」ということを知っていただければいいなと思います。

NPO法人設立.com (http://xn--npo-1n9d898kzrruty.com/uneiqanda/post-1.html
NPO法人設立センター(https://www.wakaba-npo.com/column/yakuin-q-yo/
NPO設立支援室「NPO法人の作り方」(http://npo.ii-support.jp/seturitu-qa/page072.html

さて、前置きが長くなってしまいましたが、以下大野さんのインタビューです。

地域のためにはたらく

(名古屋めし”文学”授業−名古屋めしの魅力を再定義する!)

――大野さんこんにちは。早速ですが、大野さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

大学時代からお話させていただくと、僕は金沢の大学に進学し工学部に所属していたので地域やまちのことについては勉強する機会もなく、ほとんど興味もなかったんですね。ただその一方で、専攻していた工学系がなんとなくつまらないなあという想いとともに、経済のような分野に興味を持ち始めていました。

モヤモヤは抱えていましたが、大学院に進学することは決めていたので、専攻していた工学系で経営や経済も一緒に学べるような大学院はないのかと探しているうちにMOT(Management of Technology)※というものを学べる関西の大学院を見つけたので進学することにしました。

いろいろな学部が入り混じって様々な領域を学ぶことができる場だったのですが、とくに研究の一貫として携わることになった「御堂筋の活性化研究のプロジェクト」は、はじめて「まち」との接点をもつ機会でもありました。そのときの経験がきっかけで、このような「まちづくり」といった領域・分野に興味をもつようにもなり、現在に繋がっています。

※MOT(Management of Technology)…技術経営。技術を理解する者が財務やマーケティングなど企業経営全般を学び、技術革新をビジネスに結びつけようというもの。

卒業後は地元名古屋に帰り、就職することにしました。地元×経済…あわよくば「まちづくり」に携われるような仕事を探して、半官半民のベンチャー・キャピタルに就職します。中小企業やベンチャー企業に投資をする会社だったのですが、転勤もなかったですし、地元の企業に対する投資をすることによって、まちと地域の支援になるのではないかという想いをもっていました。

――はたらく場所としてなぜ地元を選んだのですか

「地元にアイデンティティがある」っていう想いが強かったからですね。両親も住んでいるし、やっぱり地元で仕事をするということに対する優先順位が大きかったんです。

――実際就職してみていかがでしたか。

ある程度自分のやりたい領域と会社の事業は重なっていましたが、社会人になって一年が経ち、仕事に対してのモヤモヤが生まれていました。「大ナゴヤ大学」にもボランティアとして関わっていたので、自分の仕事が本当に「地域のためになっているのか?」という葛藤を抱えていたんですね。そんななか、2008年に起きたリーマンショックをきっかけに会社の方針が変わったこともあって、新しい行動を起こす決意をしました。

――七尾市のまちづくり会社さんへのインターンシップですね。

NPO法人「ETIC.」の地域イノベータープログラム(当時)というものの1つとして参加しました。離島へ行くプログラムもあったのですが、僕自身、石川県の大学に通っていたこともあって、知り合いもいるし、地理感もあるということで、七尾市のまちづくり会社「御祓川」さんを選び、半年間インターンシップというかたちでお手伝いすることになりました。

とにかく「地域の仕事とはなんなのか」というところをこの目で見て体験し、学びたかったんです。実際には、能登半島の農産物や伝統工芸品のインターネットショップを運営する仕事でしたが、地域の人たちと触れ合う機会も多かったので刺激的でしたね。

――それまで勤めていた会社は辞めて挑戦したということでしたが、思い切って飛び込んだことで、何を得ることができたのでしょうか。

直接地域の人たちとつながって、ちゃんと仕事にもなって、頑張ればそのまちに還元できる。そういったはたらき方のスタイルというものを学ばせていただきました。

また、地域の魅力を伝えることの楽しさも知って、「大ナゴヤ大学」に本格的に関わるきっかけになりましたね。

いきなりリスクをとらず、少しずつ関わりを大きくしていく

――最終的に「大ナゴヤ大学」ではたらくことを選択した大野さんですが、NPOとしてまちづくりに関わることのメリットとは何なのでしょうか。

関わりたいと思う人が自分のタイミングで関わることができるということですかね。いきなりゼロイチで携わるという方法だけじゃなくて、何か他に軸となる仕事をしながらあくまで無報酬でお手伝いするっていうやり方も可能だったりするということです。

特に「まちづくり」においては、それぞれ関わり方のグラデーションがあるので、自分がどの立ち位置で携わるのか、どのくらいの関わり方をするのかっていうのを明確化することが大切なんじゃないかなと思っています。そういう意味で、リスクのないもう一つの軸を持ちながら少しずつステップを踏んで考えられるという点は大きな魅力だと思います。

さらに今の時代は、仕事にしていくためのお金のハードルを段階的に超えていって自分の立ち位置を決めていくという様なことが比較的しやすくなっているので、NPOという立場で深く関わりたい!職員を目指したい!という人たちも、いきなりリスクをとらずに少しずつ関わりを大きくしていくというようなキャリアを考えてもよいのではないでしょうか。

新卒でNPOという選択肢について

――その一方、「まちづくり」に携わりたいと考えている学生が【新卒で】NPO団体に入るという選択についてどう思われますか。

NPOといってもいろいろあるので、例えば名古屋近辺ならば「G-net」さんや「中部リサイクル運動市民の会」さんなど、活動そのものが事業として確立されている団体さんだと給料面の不安やリスクみたいなものは少ないのではないかなと思います。むしろ自分のやりたいことが明確ならば一般の企業さんよりもやれる幅が広くて、チャレンジもしやすいと思うので、選択肢としては全然ありなんじゃないかなと思いますね。

――「事業として確立されているかどうか」といった、NPOの中身の情報に触れる機会って意外と少ないですよね。

というより、絶対数が少ないということもあるのでそもそも情報が入ってこないのかもしれません。でも、先ほど話したように段階的に関わるというやり方もあるので、キャリアの選択肢を広げてもらって、その上で事業としてしっかりされている団体を見極めてほしいですね。

――学生時代にはどのような経験をしたらよいのでしょうか。

好きなことをやったらいいんじゃないかとしか言いようがないですね(笑)。というのも、学生ってそれができる最たる良い時間だと思いますし、色んなことにチャレンジして、「何が好きなんだろう」「自分の価値観って何なんだろう」っていうのをしっかりともてるようになるとそれが後々強みになっていくので、どんどん好きなことをやってほしいと思います。好きなことに没頭できる強さほど最大の武器はないと思うので。違ったらやめればいいですし、好きだと思えばとことん時間を割いてのめりこんでほしいですね。

今回取材に伺った「大ナゴヤ大学」の事務局

あとは、本音を言ってくれる大人に会うといいと思います。やはり会社などの組織だと建前が多い世界なので、特に採用活動なんかもそうですが、お互いが建前になってしまって自分が何をやりたいのかというところまでなかなかたどり着かないと思います。
しかし、この「まちづくり」やNPOという世界にいると「君は何がやりたいの」っていう「主観」が求められるので、学生期間のなかではそういったものを引き出してくれるような大人に出会えるといいんじゃないかなと思います。

まちづくりのような分野そのものも「ほぼ主観」というのが大事というか、正解がないので、「こんなまちになったらいいな」という考えが人それぞれ違っていて本来は良いと思うんですよね。

20年以上続くまちのパン屋さんからおいしく学ぼう!〜パンのこと、パンに関わる仕事のこと〜

「大ナゴヤ大学」も、みんな自分の好きな授業を企画していますし、多様性という意味でもその人の「主観」っていうのがまちづくりにおいては結構大事だと思うので、好きなことをやって、いい大人にたくさん出会ってほしいですね。

地域活性化は結果でいい

――最後にこれからの大野さんのはたらき方やくらし方について教えてください。

すこしずつ境界をなくしていきたいですね。「はたらくこと」と「くらすこと」の境界線です。

――いわゆるワークアズライフという考え方ですね。そういう人が地域に増えればそのまち自体も生き生きとしていく気がします。

地域活性化って「結果」でいいと思っていて、そこにいる人たちが楽しく生きていれば結果的に全体としてまちは面白くなっていくという考え方になりました。最近まで僕も、まちを面白くすることをいちいち目的化していたり、「大ナゴヤ大学」をどう面白くするかという目的に対して一人一人をどう当てはめていくべきか、というような考え方をしていましたが、でもそうじゃなくて、関わる人が自由に楽しむ。それが結果として「大ナゴヤ大学」やまち・地域全体が面白くなっていくんだという発想になるようになりました。

なので、僕の個人的なはたらき方やくらし方についても「〜しなければならない」というのをとりのぞいていきたいなと思っています。まだ僕も「食べていかなければならない」っていう感覚が強かったりするので、それを逆転させて、「〜したいからやってみる、そのためにそれをどうお金に変えていくか考える」というはたらき方・考え方に少しずつシフトチェンジしていけたらなと思っています。


いかがでしたたか。今回は、NPOとしてまちづくりにかかわる人生の先輩にお話を伺いました。正解のない「まちづくり」においては、それぞれの主観が大切であること。そのために学生のうちにとにかく好きなことをみつけて没頭し、本音を言ってくれる大人と出会って自分の立ち位置を明確にしていくこと。その他普段なかなか出会うことのない新しい考え方や価値観を知ることができたのではないでしょうか。

大野さんと同じ愛知県出身の私もゆくゆくは地元に戻り地域のためになる仕事・活動をしたいという想いをもっていますが、段階的に関わりを大きくしていくという考え方に大変勇気をもらいました。自分の「やりたいこと」だけではなく、自分の「できること」にもしっかりと目を向けながら、まちや地域にくらす人たちが生き生きとするような活動をしていきたいと思います。

今回の記事で、みなさんの学生生活・就職活動・はたらき・くらしの考え方に少しでも新しい気づきを与えられたら嬉しいです。

【ライタープロフィール】

伊藤詩恩(いとうしおん)

明治大学4年 愛知県豊橋市出身 趣味はまちのSINCE集め

大学3年時、半年間ほど参加したリノベーション会社での長期インターンシップの経験から、人のはたらきやくらしにおける空間のもつ影響力・重要性に気づかされる。空き家・空きビルの活用といったものと、地方が面白くなることの関係性を学びながら、学生だからこそできる様々なアプローチを武器に活動中。