今は都市部に住んでいるけど、大好きな地元は地方にある。
いつか地元に貢献したいけど、今何をすればいいかわからない。
「地元に帰るか、帰らないか」という迷いを一度でも感じたことのある学生さんは少なくないのではないでしょうか。
私は千葉県で生まれ育ちましたが、趣味である地方への旅行やボランティアを通じて地方に憧れを持ち始めました。
今回インタビューした中村圭さんは、私が取り組んだボランティア活動の際にお世話になった方です。大学を卒業後東京で就職し、現在は地元・神津島(こうづしま)にUターンし、地域おこし協力隊として活動されています。「東京で一度働いてから地元へ帰る」という選択をした中村さんのキャリアはどのようなものか、どのような考えを持っていたのか、お話を伺いました!
目次
地域おこし協力隊とは?中村圭さんとは?
まず、地域おこし協力隊とは一体どういうものなのでしょうか?
それは、人口減少や高齢化などの進行が著しい地方において、人材を受け入れ地域協力活動を行ってもらい、地域力の強化や隊員の定住を図る制度です。自治体によってその募集の詳細は様々ですが、農林水産業の従事や観光業など多種多様な部門があります。
より詳しくは、JOIN(一般社団法人 移住・交流推進機構) や総務省のページをご覧下さい。
今回インタビューする中村圭さんは、伊豆諸島のひとつである、東京都神津島村出身です。中学卒業まで島で暮らし、高校進学を機に上京され、大学卒業後はそのまま東京の鉄道会社に就職されました。4年半勤めたのち神津島にUターンし、現在は地域おこし協力隊として活動されています。
また、 村おこしNPO法人ECOFF と提携し年に2度ほど学生ボランティアの受け入れを行っているほか、「神津島盛り上げ隊」というNPO法人を立ち上げ、代表を務めていらっしゃいます。
遊んでいた大学時代。仲間を地元に誘致!
ーー現在様々な活動を行っている中村さんですが、大学時代はどのようなものだったのでしょうか。
「大学時代はいい意味で遊んでいました。友達と色々な所にドライブに行ったり、遠くの方に行くとかそればっかりで。自分が中心になって毎年神津島に20人30人連れて行って、もてなすこともありました。基本的には直接の友達だけだったのですが、年々友達が友達を呼びどんどん増えていき、ついには所属するサークルの合宿先も誘導して神津島にしてしまいました。」
ーー毎年そのようにみんなを引き連れて行くというのが、地元との主な関わり方だったんですね。
「そうですね、連れて行けるのがうれしかったので、楽しんで帰ってもらえるように自分がコーディネートしていました。中には3年連続で来た人が学生最後の夏に、帰りの船で泣きながら『来年はないのか…』って言ってくれるくらい愛着心を持ってくれて。そういうのを見て、『地元を知ってもらうのは自分にとって嬉しいしプラスだな』と感じました。」
東京での経験
ーー大学卒業後にファーストキャリアを東京で積んだ理由は何だったのでしょうか?
「もちろん島に帰るという選択肢もありましたが、何かそれだと負ける気がしていました。地元とか実家ってそれだけで帰りやすい場所ですが、すぐに帰ると東京でうまくいかなかったんじゃないのかと思われてしまうと感じていました。その気持ちのせいか、『東京でちゃんと働き、うまくいってることを示して、なんとなく地元に帰ってきたんじゃないんだぞ!』ってアピールしたかったし、東京で社会経験を修行として積んでおきたいという気持ちもありました。」
ーー東京でずっと仕事を続ける選択をしなかったのは何故か教えて下さい。
「自分は電車が大好きだったのでJRに就職しました。色々な人が電車に乗れるように施していけばいずれその人達の生活がハッピーになっていくんじゃないか、っていう想いがありました。でも、大きい会社なので10年20年働いてやっと自分が中心になって地域の人を巻き込んだ企画ができる立場になるんです。いかんせん期間が長すぎると感じましたね。そこで、地元なら好きなように自分で動いていけるかもしれない、と考え始めました。」
ーー「動きたい」という思いがUターンの後押しになったんですね。
「そうですね。そもそも、30歳前くらいには帰るぞ!って中学生くらいから思っていて。JRで働いているとき、駅員の次に車掌を経験して、その次に運転士の試験があるんですけど、もし運転士の試験に受かってそのまま仕事を続けたら30歳超えてしまうなって思って。同期はみんな運転士の試験を受けていましたが、自分はそこで『お世話になりました!』って辞めて、Uターンすることを決めました。」
乗り越えた、Uターンの葛藤
ーー元々地元に帰ることを決めていたということですが、Uターンする際に葛藤はなかったのでしょうか。
「いや、なくはなかったです。覚悟は決めたものの、島で働いたことないですし、10年以上離れていたから変わった部分もあるでしょうし。今島にいる中学生が2歳3歳の頃に自分が出て行っている訳なので子どもたちは誰も自分のことを知らないわけです。そんな中うまくやっていけるかなっていう不安はありました。給料も当然下がりますしね。
でも同じ会社でずっと働くのも良いと思うこともあったのだけど、色々動いていきたい自分には合わないなと思うこともありました。島での生活は、与えられる仕事をこなすだけではなくて、自分で考えて行動しなければならず、それは大変だよなぁ・・・っていう葛藤はありつつも、以前から帰ることを決めていたのでぶれることはなかったです。」
ーー地元に戻るというしっかりとした軸があったから、そのような葛藤も乗り越えられたのですね。
では、Uターンの際に地域おこし協力隊として戻ってきたのは何故なのでしょうか?
「実は、タイミングが良かったからなんです。もともと神津島が地域おこし協力隊を募集していることを知ってはいたのですが、自分はUターンだし応募しなくていいかなって最初は思っていました。
でもその時募集していたのが観光部門の地域おこし協力隊だと知って、それが自分がやりたいことだったんです。それに、いきなり1人でポッと島に戻っても誰かと繋がるきっかけが無いのはまずいと思ったんですよ。なので、島生活に復帰するためのリハビリと捉え、働きながら、やりたいことができそうなら良いんじゃないかな?と思って応募しました。」
学生や新卒で、協力隊になるとしたら?
ーーもし学生や新卒で協力隊になれる場合、そのメリットやデメリットは何だと思いますか?
「自分自身がやってみて、新卒とかで入るのはあんまりオススメしたくないかなあ。というのも、いきなり実務を求められるんですよね。企画立案実施、挨拶回り、人との付き合い方…など。社会経験が5年10年の人材が求められているんじゃないでしょうか。
だから東京でファーストキャリアを積んだ、っていうのはここで活きてきましたね。ちゃんと就職先が育ててくれる、自分を伸ばそうと思えるような環境であれば、キャリアを都市部で積むのはいいことだと思います。
メリットとしては、田舎とか地方に飛び込みやすいことだと思いますね。
本来は任期があってゆくゆくは定住っていう目的ですけど、それがもし叶わなかったとしても地域を知れるっていうのはとても大きいことだと思います。『これが田舎、これが地方だ』って知ったうえで、しっくり来ればそのまま頑張ればいいし、もし田舎に対しての印象が違ったとしても理想と現実の違いを確かめられると思います。」
たくさんのネタで距離を縮めよう!
ーー大学時代に得た知識や経験で、今の活動に影響したものはありますか?
「また電車の話になるんですが(笑)、自分が1番役に立ったと思っているのは、電車で色々な所に行って、色々な場所やその土地の名物を知ったことですね。
人と話していると意外と出身地の話になるんですよ。それで、『あ、そこ知ってる!』ってなると打ち解けやすいように感じます。
大学生活中に色々な人の共通の話題になれるような知識を増やしておけば、社会に出た時に話が広がっていくと思います。」
ーー何でも見て、知って、色々な経験をすることが大切なんですね。
「何に対しても面白さを見つける。それを、面白いんだよ!って周りに伝える。響かない人もいるけど、もちろん響く人もいるわけなので、伝わると世界が広がる感じがして面白いですよね。」
自分の世界と、外の世界を知る。
ーー学生時代の中村さんが今の中村さんを見たら、どのように思うでしょうか?
また、今考える学生時代にやっておけば良かったという後悔などあれば教えて下さい。
「予想通りの未来になってるなあ、じゃないですかね。
学生時代にした後悔といえば、1人で遊びすぎてNPOなどの他の団体と絡まなかったことでしょうか。自分でブログは書いてたけど、外との繋がりが少なかったかな、とは思います。学生時代にインターンとかやっておいた方がよかったのかな、でも先にそういった組織の色に染まらなくて逆に良かったのかもな、とか考えています。」
ーーでは今、外部での関わりが多い学生さんは反対に、中村さんのように自分の世界を広げるというのも大事だということですね。
「そうですね。外部の団体とかと関わっていくと、世界は広がるんだけどその世界だけになっちゃう部分は大きいと思うんですよね。組織の一員になっていると、あんまり無茶や馬鹿なことをしない(笑)。もちろん外の世界との関わりは大切だと思うんですけど、自分の主体性、自分の軸を育てる視点で見るとそれだけだともったいないと思います。」
学生へのメッセージ
ーー最後に、地元との関わり方やUターンについて悩んでいる学生さん達へメッセージやアドバイスをお願いします!
「キャリアといえど自分が選択する道なので、この道しかないんだ!と思い込んで他の選択肢があることに気付かないのが一番もったいないことだと思います。視野を広く、選択肢を多く持っていて欲しいですね。その選択肢を広げるためにどうすればいいのかという点では、自分で色々な世界を見に行くことだと思っています。こういう仕事もあるんだ、みたいな。
缶コーヒーのCMじゃないけど、『この世は全て仕事でできている』わけです。電車を動かす運転士だって人だし、運転士を管理するのも人だし、その人が入る会社のビルを作るのも人だし、自動販売機にジュース入れるのも人だし、イベントを企画するのだって人だし。全部人が動いて仕事ができているんですよね。
だから就職活動でエントリーできるところだけが仕事=選択肢じゃないということです。幅広い選択肢を見つける視野と情報収集能力、目先の損得だけではなくて偶然の出会いやきっかけに楽しさや価値を見いだせる行動力などを大事にして欲しいと思います。」
ーー自分の地元のことも、既に知っていると思い込まずに視野を広く持ってリサーチすることで選択肢が広がりそうですね。
具体的な行動をどうしたらいいかわからないならば、長期休みには鈍行列車に乗って地方へ行ってみてはいかがでしょうか?何を求めるわけでなくても、実際に行ってみるだけで、地方と自分の距離は縮まるはずです。そこから、次へ次へと行動が繋がっていくかもしれません。
これからのあなたは?
地方と関わりたい!と考えている私は中村さんのお話を聞いて、視野を広く持ち、多くのことを知り、見に行く努力をしなければいけないと感じました。また、自分自身や地元を考えるきっかけにもなっています。地元に帰るかどうか悩んでいる皆さんもぜひ今から、様々なことを知るためのアンテナを張っていきましょう!
そして、自分の好きなことや強みを追求しながら少しずつ将来を思い描いていき、それを実現させるために自分に必要なものは何か?どんなことをすればいいのか?ということを考えて有意義な経験を積んでいけると良いですね。
私も、皆さんも、たくさんの経験をして選択肢を広げた上で、納得できるキャリアを見つけられるといいな、と思います。
これからの行動次第です!