今回私たちが訪れたのは、国内有数のたこ加工品生産企業の一つ、『あ印』。工場では一体どのようなことが行われているのでしょうか。実際にお仕事を体験させていただきました。そこで見えてきたのは、水産物のおいしさへのこだわりと、働く人々同士の思いやりでした。
会社の基本情報
株式会社あ印
1957年設立
以降、たこ、いか、えびを中心に水産物の加工及び商品開発を行い、アメリカやアジア各国への輸出も手掛ける。2015年には新しくお惣菜シリーズ「海の食堂」の販売を開始するなど、新商品の開発にも積極的に取り組み、事業を展開し続けている。
体験スケジュール
ひたちなか市を代表する水産企業が集まる地域の中に、一際目立つ赤い「あ」印を発見。バリエーション豊富で美味しそうなお惣菜が並ぶ直売場を進み、私たちの胸が一層高まりました。『あ印』がもつ美味しさの秘訣を探りに、いざ出社です。
工場へ向かう廊下には、『あ印』の長い歴史に関する写真がずらっと並んでいました。1957年に初代社長である鯉沼兵介さんにより設立されて以降、1994年に行われた現工場への移転等を経て、常により安全でおいしい水産物の加工を追求されてきた『あ印』。すべての写真から、美味しい水産物を創り出すことへの熱い思いが伝わってきます。
工場内に入ると、私たちの体の何倍も大きな樽がたくさん並んでいました。これはいったい何かというと、“たこの洗浄機”。樽の中にたこを入れ、回転させながら塩を揉みこんでクサみの元になるぬめりを落としていくのです。洗浄は条件を変えて何度も繰り返しますが、樽ごと持ちあげて洗浄場所を変えていくため他の種類のたこと混ざる恐れもなく、安心の設計なのだそう。
続いて、たこを加熱する過程を見せていただきました。ここで行われている加熱方法は、『あ印』が独自で生み出した製法。なんと「茹でる」ことを全くせずに「蒸し」のみで加熱するというのです。まさにこれこそが、『あ印』のたこがおいしい一番の理由!
一般的な製法でつくられた蒸したこ
① 蒸す ②茹でる ③完成!
ボイラーから出る 蒸す時に出る加熱ムラを
乾いた蒸気で加熱します。 茹でることで抑えます。
うま味凝縮製法でつくられた蒸したこ
① 蒸す ②完成!
水分をたっぷりと含んだ蒸気を上下から吹きかけ、
ムラのないようにしっかりと加熱します。
このように、蒸す工程のみで加熱することによってうま味が水に溶けださず、素材のうま味を閉じ込めることができるのです。
水分をたっぷり含んだ蒸気であることも大切なポイント!サウナに例えると、通常の加熱方法はドライサウナ、うま味凝縮製法はミストサウナのようなもの。ミストサウナの方が湿度が高いため息苦しくなく、肌や髪にも優しいですよね。たこも同じように、水分の多い蒸気で蒸す方がダメージが少なく、美味しくふっくら仕上がるのです。
蒸しあがったたこは、食べずとも見た目だけでわかるほどプリプリ。これこそが、『あ印』こだわりの蒸気の力。
茹で上がったたこやいかは、そのままの状態で梱包され出荷されるものと、隣接する惣菜工場に運ばれ更に加工されるものに分かれます。原料が届く場所からここまではすべて一方通行の流れ作業。工場内は、新鮮な水産物がさらにおいしく生まれ変わるための一本道になっているのですね。
工場内を一周見学させていただいた後、私たちもいよいよ作業を体験させてもらいました。午前中に担当したのは、茹で上がったいかの中に残る骨や内臓を抜く作業。一匹一匹、大きさやかたちが異なるいかから骨や内臓を素早く、そして綺麗に取り出すのは至難の業です。まさに、人の手だからこそできる丁寧な仕事。個体ひとつひとつに目と気を配り、綺麗なかたちで食卓に届ける。水産物に対する思いやりのようなものを感じました。
『あ印』では、外国人技能実習生を多く採用しています。そのため社員全員が同時に昼食をとる食堂は様々な国の人々が集まった、国際色が非常に豊かな環境なのです。そこで私たちは実際に、外国人技能実習生の方とお話をしてみることに。
話をする中で、「『あ印』で働くことの何が楽しいか」とお聞きすると、「仲間がいること」と答えてくださいました。また、「日本人と働くことは大変か」という質問には、「日本の人は優しく教えてくれる」との答えが。
『あ印』で長く働かれている日本人の方にもお話を伺うと、「実習生の方が母国の珍しい話を聞かせてくれるのが面白い」とのこと。外国人実習生と日本人が共に仲間として活発なコミュニケーションをとっている様子が伺えました。多文化が共存していて、かつ皆が仲間意識をもっている一体的な雰囲気を感じました。
お昼ご飯を食べてお腹が膨れたら作業再開です。午後はえびを計量しパックに詰める作業を体験しました。しかし、ただ重さを測るだけではありません。同時に、背ワタが残っているものやちぎれているものがないかをすべて目視で確認していきます。
計量したえびはこのようにパック詰めされます。詰めた後ももう一度他の作業員が数人体制で確認し、少しでもパックが汚れていたらもう一度計量からやり直し。衛生管理には非常に多くの人手をかけていることが分かりました。
こうして新鮮なたこやえびが商品として出荷されるまでには、たくさんの人が色々な作業に関わっているのだということを実感しました。水産物と、共に働く仲間に対し思いやりをもった人々が皆で成すチームワーク。それがあるからこそ安全でおいしい『あ印』の商品が完成するのですね。一瞬でもそのチームの一員になれたことをとても嬉しく思いました。
『あ印』は、長年の「おいしさ」へのこだわりにより生み出された独自の製法を用いて、様々な国・地域の人々の手と思いによっておいしい水産物を食卓に届けている、水産物への愛と、ここで働く人々同士の思いやりにあふれた企業でした。
学生の私が見た株式会社『あ印』のポイント
■最新独自の技術をもちいて極める、「おいしさ」へのこだわりと水産物への愛
『あ印』にしかない“うま味凝縮製法”。これには、鯉沼社長と、そして社員の皆さんの「おいしい水産物をつくりたい」という強い思いが詰まっています。『あ印』で働くということは、『あ印』の商品が届けられる世界中の食卓のおいしさに貢献するということなのです。
■ひたちなかの海の傍で働きながら、海の向こうの文化をもつ人々と過ごす日々
自然豊かで親しみやすいひたちなか市で働きながら、毎日異文化交流ができる場所、それがこの工場。他国の人々と共に同じ目的に向かって協働し、仕事を成し遂げた達成感を共有する毎日はきっと刺激的なのだろうと感じました。
まとめ
私たちにとってあまり身近ではない水産業。実際にその現場を知り、たこやいか、えびに直接触れたことで、水産物をおいしくするという努力に親近感がわきました。おいしい水産物をひたちなかの街で追求し、世界の食卓に幸せを届けることの魅力を強く感じた『あ印』での就業体験でした。