東京C観光と菱沼さんから学ぶ、東京の新しい魅力の見つけ方とは?

皆さんは、社会科見学と聞いて何を思い浮かべますか?工場や議事堂、博物館、消防署…など、さまざまな施設が挙げられると思います。ですが最近、「地域ならではのユニークな活動に取り組む“ヒトビト”を訪ねる」という新たな社会科見学が始まりました。

今回は、この新しい社会科見学サービス「東京C観光」を運営している、「フィールドトリップ東京株式会社」代表の菱沼秀行さんにお話を伺いました。

「フィールドトリップ東京株式会社」代表・菱沼秀行さん

広告会社の会社員時代にソーシャル系大学の源流「シブヤ大学」のコンセプトに魅了され、都内初となる姉妹校の立ち上げプロジェクトに参加。その後広告会社を退職し、鉄道会社の沿線コミュニティづくりに携わりました。
これらの経験を通じて、東京にあるコミュニティ資源を観光という形で提案したら面白いのではないかと考え、そのアイディアが「東京C観光」へとつながります。

東京生まれ東京育ちで地域というものに興味がある」「地域とかかわる仕事がしたい」「地域コミュニティ活動に参加したいけど勇気が出ない」、そんな方に向けて、「東京C観光」に込められた想いから、新たなキャリア形成の視点までお話していただきました。

「東京C観光」を運営している、「フィールドトリップ株式会社」代表の菱沼秀行さん

「東京C観光」を運営している、「フィールドトリップ株式会社」代表の菱沼秀行さん

「東京C観光」とは?

東京C観光」では、東京の各地域ならではのユニークな活動をしているコミュニティに参加し、その活動を体験できる“まちの社会科見学”を行います。
第一弾では、地域フードバンク活動の一環として日本初の「無料スーパー事業」に取り組んだNPO法人「シェア・マインド」への見学を行っていました。

見学先のNPO法人「シェア・マインド」の運営する無料スーパー店内へと入っていく参加者の皆さん

見学先のNPO法人「シェア・マインド」の運営する無料スーパー店内へと入っていく参加者の皆さん

当日は現地集合、現地解散。見学先の情報や活動テーマを確認するオリエンテーションを行ってから見学に入ります。見学後は参加者同士で気づいたことを共有し、意見の交換を行います。最後に記念写真を撮って終了というスケジュールです。

NPO法人「シェアマインド」見学の参加者の皆さんとの集合写真

NPO法人「シェア・マインド」見学の参加者の皆さんとの集合写真

では、この「東京C観光」を運営している菱沼さんはどのような想いで始めたのでしょうか。

きっかけから事業を始めるまで

宮澤:ホームページによると、シブヤ大学」の姉妹校プロジェクト鉄道会社の沿線コミュニティづくりが「東京C観光」のアイディアのきっかけになっているように感じられたのですが、それぞれではどのような活動をしましたか?

菱沼さん:私は広告会社につとめていた時に、「シブヤ大学」というのを知りまして、街をキャンパスに見立てて、街の資源としての教室とか先生をその都度変え、街全体で学びの機会にするっていうそのコンセプトがユニークに感じたんですね。
このように興味をもっている中で、「シブヤ大学」が経済産業省の助成を受けた姉妹校プロジェクトの一環で、多摩30市町村の”まちをまるごとキャンパス”に見立てた、都内初となる姉妹校を仲間と立ち上げました。これに準備期間と開校後3年に渡る創業時期に運営メンバーとして関わりました。

宮澤:会社員として働きながら、東京の”まちをキャンパスに見立てた”大学プロジェクトを立ち上げたのですね。

菱沼さん:そうですね。その後、東日本大震災の年に働き方を見つめ直す機運があり、勤務先の退職を決断しました。地域資源を活用した事業アイディアを考える中、多摩地域を横断する東京の大動脈である鉄道会社から、沿線価値向上を目的としたコミュニティ・プロジェクトの依頼があり、地域で働く仲間とチームを組み、これに当たりました。
これがまさに沿線の地域コミュニティ資源を発見し、共有し、交流するという一連の流れを、定期刊行フリーマガジン、トークイベント、ワークショップ、サポーター組織、コミュニティウェブサイトなどを通じて、沿線地域の魅力的な人、コト、場所を「見える化」するプロジェクトだったんです。

宮澤:そうだったのですね。では、これらの活動がどのように「東京C観光」のアイディアへとつながりましたか?

菱沼さん:まず「東京一極集中」というネガティブな視点をうのみにするのでなく、「約1400万人の多様な価値観の人々が集まり、日々アイディアが交流し創発される、都市の醍醐味」という側面に注目しました。その上で、「実は東京に暮らす人ほど、自分の暮らす地域周辺や会社や業界周辺以外の豊かなコミュニティ資源には気づいていないんじゃないか」という仮説を持ったんです。なので、今まで東京の魅力を掘り起こしてきた「ハード」や「施設」ではなく、東京の「人」という資源をコミュニティ観光という形で提案したら面白いんじゃないか、それなりに事業性もあるんじゃないかと思うのがここまでの一連の考え方なんですね。

宮澤:東京の「人」を通して、都市の魅力を提案しようと考えたのですね。では、実際に動きだそうと思ったターニングポイントはどこでしたか?

菱沼さんタイミングを見て適切な人にこのコンセプトを話していた中で、じゃあやりましょうって言ってくれたのが、多摩市でフードバンク事業を行う、NPO法人「シェア・マインド」さんでした。その時には、「東京C観光」っていう名前もコンセプトも一応できていましたが、まだ一回も実績がない中「デメリット何もないのでやりましょう」って言ってくださって、うれしい反面、「うっわー、これはもう引けないね、こっちから提案したんだし。」みたいなところが正直ありました。それで、3月の後半ぐらいから急いでホームページやSNS、広報リリースなどを立ち上げたというのが正直なところなんですね。

宮澤:「シェア・マインド」さんと一緒にやりながらできていったんですか。驚きました!

NPO法人「シェアマインド」さんと共に作り上げた、記念すべき第1回目の現場見学の告知

NPO法人「シェア・マインド」さんと共に作り上げた、記念すべき第1回目の現場見学の告知

事業の仕組み

宮澤:「東京C観光」のビジネスモデルはどうなっているのですか?見学先とのコネクションの取り方や見つけ方、選ぶ基準を教えてください

菱沼さん:見つけ方はよく聞かれるんですけど、正直に言うとアナログなやり方で、具体的には新聞、テレビ、ラジオ、Webサイトをパトロールしまして、日常の関心の中でアンテナにひっかかってきたものを見ています。また選ぶ基準というところでは、まず「自分が最初の観光客として訪ねたい」と思えるかどうか、そしてその訪問先のコミュニティ団体様にとっても「東京C観光」が有益な提案になると確信を持てるところに声をかけます。

宮澤:日常の関心の中から探しているのですね。では、見学先へのメリットとしてはどのようなことがありますか?

菱沼さん:「東京C観光」の受け入れ先メリットは3点あると提案・説明しています。
ひとつは「広報力のアップ」
法人名や事業プロジェクト名が、都市のイベント情報として発信されていくので、採り上げられるメディアもそして情報がリーチする相手も、訪問先団体様のこれまでの広報先に比べ格段に広がりを持って、事業のPR、知名度向上につなげることが出来ると考えます。

ふたつめは「組織の活性化」です。
”観光”という関心を持ってソトから来る方々を目にすること、事業の意義をソトの方に繰り返し語ることは、自分たちの事業の価値を再確認し内部スタッフのモチベーション向上につながると考えます。
観光で団体を訪れた方が、その後、サポートや支援という形で組織につながる可能性もあると考えていますし、そういった事例も既に生まれています。

最後は「新たな収入源となる」という点です。
「東京C観光」の参加費用の一部は受け入れ先団体様の収入となります。
これまでの視察や見学の受け入れを、収入を生む新規事業プログラムになる可能性がある、といった点も説明しています。

 NPO法人「シェアマインド」さんから参加者の皆さんへのレクチャーの様子。参加者の皆さんへ事業の説明をします。

NPO法人「シェアマインド」さんから参加者の皆さんへのレクチャーの様子。参加者の皆さんへ事業の説明をします。

苦労ではなく楽しんでいます

宮澤:この活動をしている中で苦労はありましたか?

菱沼さんいまのところ苦労はあまりないですね。むしろコンセプトを形にしているっていう意味では、苦労というよりも楽しんでいます。ただ、もちろん社会科見学の頻度やエリアをそれなりにバリエーションとしてラインナップしていくですとか、エリア、日にち、ジャンルから見学先を選べるように、Webサイトをプラットフォームとして整備する必要はあると思っています。

宮澤:では、この活動をしていてよかったと思った瞬間はありましたか?

菱沼さん:まずは参加者の方々に、対価に見合う価値があると期待され、実際に定員以上のお申込みを頂いた点ですね。提案が受け入れられた瞬間ですからね。
合わせて、メディアの取材を受けたことも、同様に事業コンセプトへの反響ですから、嬉しかったです。
そして、最初の訪問受け入れ先となって頂いた「シェア・マインド」さんからも「たくさんのメディアに取り上げられて感謝。」とのねぎらいを頂いた点も、ホッとした瞬間です。
事業として取り組む以上、売り手よし、買い手よし、世間よしの”三方良し”のトライアングルを少なからず感じ取れたことは収穫でした

宮澤:やってみるという勇気がやはり大事ですよね。

菱沼さん:そうですね。さっき言ったように、相手がやるって言っちゃった以上、こっちが提案しちゃっている以上引くに引けない、これはもう覚悟を決めてやるしかないって思いましたね。

ロス食材を活用した「チャリティ・バーベキュー」の会場への移動の様子。参加者の皆さんの笑顔が印象的です。

ロス食材を活用した「チャリティ・バーベキュー」の会場への移動の様子。参加者の皆さんの笑顔が印象的です。

今後挑戦していきたい事

宮澤:今後新たに挑戦していきたいことはありますか?

菱沼さん:まずは、「プランの数とカテゴリーの充実」ですね。例えば、「こども食堂」や「ご当地発電」、「まちの居場所づくり」、「空き家リノベーション」、「若者支援」や「共生まちづくり」など、多様な社会的テーマに関連して取り組む、東京ローカルのユニークなコミュニティ活動を発見、共有し、”まちの社会科見学”を名実ともに充実させていきたいです。

また将来的には、この「東京C観光」に多様な人が”ガイド”として参加できることを夢見ています。“コミュニティビジット・ガイド”と名付ける役割を担い、それぞれの参加する人びとの多様な関心が見出したコミュニティ訪問先をコーディネートし、プログラム化し、現地ガイドも担うことで報酬も得られる、そんなネットワークを。
東京に暮らしながら生活の一部として、自分の関心ごとから地域に「つながり」「役割」「居場所」を持てるプラットホームとして「東京C観光」が貢献できたら、こんな歓びはないですね。

宮澤:ご当地発電は面白い取り組みですね。初めて知りました。

菱沼さん:そういう知らないことは東京生まれ東京育ちのかたでもいっぱいあるんですよね。

地域とかかわる仕事とは

宮澤:菱沼さんが考える地域とかかわる仕事とは何だと思いますか?仕事をするうえで大事にしていること、心がけていることを含めて教えてください。

菱沼さんいきなり0ベースから仕事を作ることでなくていいんじゃないかなって私は思ってます。それよりは今の社会では多様な働き方が許される機運が高まっているので、そういう意味では、本業と副業みたいなものを早い段階から並行してやるっていう仕事観を持つと、長い目で見た時にすてきになるんじゃないかなと思います。自分の居場所や自分の評価される環境を複線にすることで、一本が弱々しくなっても、もう一方で自信を取り戻せたり、こっちの目で見たものの見方がもう一方の仕事で生かせたりっていう複々効果が自分の経験からもすごくあると思います。なので、早い段階からローカルとか地域で仕事と違う関わり方ができる場を持つと人生豊かになるんじゃないかなと思います。

宮澤:これから就活を始める者としても副業という観点で“地域”というものに働きかけていくというのは新しい観点だと思いました。

菱沼さん:いわゆるフルタイムじゃなくても、NPOのスタッフになることはできるし、ボランティア団体だったらなおさらです。なにか好奇心から始まった活動から、最終的に本業を豊かにする視点も持てるし、それが人生百年時代の中ではいきてくる居場所になるかもしれないし、いいことなんじゃないかなって思います。

インタビューの中で様々なお話をしてくださる菱沼さん

インタビューの中で様々なお話をしてくださる菱沼さん

学生の皆さんへ

宮澤:私のように地域とかかわる仕事がしたい学生がたくさんいると思うのですが、そのような学生に一言お願いします。

菱沼さん:学生さんでも、今すごい早い段階から職業観とか仕事に対する意識があるじゃないですか。ですから、もしかしたら売り手市場とはいえ、いろいろ就活のなかで自信をなくしたりとか、自分のよりどころや軸がぶれて不安になることがあるとは思います。コミュニティ観光をネタにしている当事者からすれば、全国にはNPOが5万あって、そのうちの20%、つまり1万が東京にあるんですね。つまり、学生さんの多くは就職活動でNPOという選択肢を1個も考えていないかもしれないけど、今の時点でも、もしかしたら若さだったり、先入観のない物の見方だったり、何かちょっとしたエクセルを作れることだったりを必要としているNPOや市民団体はいっぱいあるよっていう事をまず伝えたいですね。そういう目で見ていくと、就活とは違う、自分が何か役に立てる、必要とされている場もまだ知らなかっただけで豊かな、豊穣なる地があるんだっていう風に思えて自分を奮い立たせる要素にもなるんじゃないかなと思います。

宮澤:視野を広くもった方がいいという事ですよね。

菱沼さん:そうですね、まあなんでも広くもてばいいという事ではないんですけど、自分の関心の部分で、「このジャンルで市民活動ってどこになにがあるんだろう」って思うだけで、仕事観に大きな影響を及ぼせるんじゃないかと思います。

まとめ

いかがでしたか?

このインタビューは、「地域=大都市以外というイメージがあるが、私の生まれ育ってきた東京も一つの地域ではないか?」という私の思いから始まりました。インタビューを通して、東京のコミュニティ活動に注目していくことは、さらなる東京の発展につながるのではないかと感じました。私も東京に生まれ育った者として、自分が役に立てる場所から東京の発展に責任をもって取り組みたいと思います。

皆さんも、「自分が役に立てるNPOや市民団体を探してみる」「ローカルとのかかわり方を本業で探すのではなく副業という視点で考えてみる」ことをしてみませんか?新しいことをするのはとても勇気がいることですが、自分の将来のため怖がらず挑戦していきましょう!

【ライタープロフィール】
宮澤 有加(みやざわ ゆか)
青山学院大学3年 東京都出身
大学2年時の「インバウンド地方体験ツーリズム」を考える大学の授業をきっかけに「地方創生」に興味を持つ。
東京生まれ東京育ちとして貢献できる地域発展の方法を模索中。