新卒からNPOで働けるの?-NPO法人ETIC.杉山真之介さんに聞いた「NPOで働く」こと-

近年急速な成長を見せている地方創生業界。

学生にとっては、「仕事」としてのイメージが持ちづらく、どんなキャリア形成が可能なのか疑問に思う点も多いでしょう。大学のキャリアセンターや卒業生が持つ情報も少なく、就職活動をする上で不安が多いのが現状です。

そこで今回は、地域と関わる職業の一つ「NPO」で働く人のお話を紹介します。中でも東京を中心に、日本全国のNPOを繋ぐ役割を果たしている「NPO法人ETIC.」に注目。日本最大レベルの規模で活動するNPOでは、どんな人が、どんな目的を持って働いているのでしょうか。

インタビューに応じてくれたのは、ETIC.ローカルイノベーション事業部の杉山真之介さん。杉山さんの考え方やエピソードと共に、NPOで働くことになった経緯について振り返ります。

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語ってくれた人
杉山真之介さん

1993年生まれ、静岡県浜松市出身。高校卒業後に世界一周の旅を経験。帰国後は、浜松市内の在住外国人支援やNPO法人の運営・設立支援に従事。その傍ら、若者が中心となって引佐町を楽しむための場所「√173(ルートいなさ)」、浜松市の挑戦意欲ある若者を繋げるコミュニティ「浜松若者社中」を設立。現在は「NPO法人ETIC.」 に所属し、中小企業と熱意ある若者をマッチングする実践型インターンシップのコーディネートを務めている。
NPO法人ETIC.とは
「人をつくる 社会をつくる 日本をつくる」をキーワードに、社会の未来をつくる人を育むNPO法人。「地域ベンチャー留学」や「DRIVEインターン」などの実践型インターンシップ、起業支援プログラムの提供を中心として、これまで1000人以上の起業家を日本各地に輩出してきた。近年は、東京都と連携した「TOKYO STARTUP GATEWAY」が話題を呼ぶ。

世界を知ることから始まった「地域づくり」

―まずは、地域づくりに関わりたいと思ったきっかけを教えてください。

「高校を卒業した後、世界を通して日本について知りたいと思い、一年間かけて三十二か国をまわりました。実は、その時までいわゆる『地域づくり』にはそこまで興味は無く、とにかく思い立って行動した側面が大きいのが事実です。有名な観光地にも沢山行ったのですが、自分が一番面白い!と感じたのはミャンマーのピーという小さな町で。そこに住んでいる人々が地域のことをよく知っていて、自慢げに村の周辺を案内してくれるのがすごく楽しかったんです。『自分の地元とは違うな』と思った印象深い出来事でした。」

日本では、『ここには何もないから』とか『田舎だし』とか、自分の住む地域には魅力が無いと話す人も多いですが、ミャンマーの人々を見ていると、大切なのは『その地域に何があるのか・無いのか』ではなく『その地域に住む人々がそこでの楽しみ方をどれだけ知っているか』だということに気づかされます。この時に感じた、地元である浜松の人々に、もう一度浜松の魅力について考える機会を持ってほしい、という想いが『NPOで働く』という道に繋がっていきました。」

杉山さん2

「最初に勤めたのは、浜松市のNPOでした。当時はとにかく、浜松を変えたい!という意識がすごくあって。NPOで働く傍ら、若者を集めて地元企業や行政へヒアリング調査などもしていました。自分自身で地域の抱える問題や魅力を知るその姿勢こそが大切なんだ!と。でもいざやってみると、自分が協力できる課題、自分が成長できる課題がどこにあるのか探すことから始めなければならないのは、かなりの負担で、結局、自分たちみたいな若者でもできる課題解決って何があるのか分からなかったんです。」

「当時、浜松には、地域全体で地方創生・課題解決に取り組もう!という流れがあったのですが、その割には、『挑戦したい人』と『地域の課題』、この二つが出会うオープンな場所が少なかった。これがうまくいかなかった要因です。浜松を活性化するには、僕らみたいな若い世代も、気軽に地域の課題解決に触れられる場所を作ることが必要だと思いました。そのあたりから、浜松をフィールドに『挑戦したいと思っている若者』と『課題解決を必要としている現場』をどうやって結び付けられるのか考えるようになっていった、という感じです。」

地元を想う気持ちと広がる挑戦の生態系

―「挑戦したいと思っている若者と課題解決を必要としている現場を結び付ける」。聞き覚えのあるフレーズです。

「はい。ETIC.でやっている地域ベンチャー留学がまさにこれを具現化したものです。この、いわゆる『実践型インターンシップ』と呼ばれるものは、『想いを持つ人』と『地域』の懸け橋になる。ETIC.が両者の間に入って情報提供、活動支援を行うことで、若者には課題解決能力を高める機会を、地域には意力ある若者の活力を提供することが出来る、という仕組みですね。浜松に必要なのはこれだ!と思い、ETIC.について調べ始めました。これがETIC.との出会いです。」

地域ベンチャー留学

地域ベンチャー留学のホームページ

「ETIC.の目標の中に『挑戦の生態系の構築』というものがあります。この『ETIC.という組織の掲げる目標』と、僕自身の持っていた『実践型インターンシップのノウハウを浜松に持ち帰り定着させる』というビジョンがうまく合致した。これが一番の入社の決め手でした。生態系とは、土から栄養を貰い植物が育つ、植物を食べて動物が育つ、動物のフンや死骸からまた新しい土が育つ…というような、外部からの補助無しで連鎖や循環が維持される状態を指しますETIC.が目指すのは、地方都市関係なく全ての地域で挑戦が育まれていく生態系を築くことです。」

「地域が独自の課題解決手段を持ち、地元の人に、より地域を好きになってもらう。それをきっかけに人が集まってさらに課題解決がなされていく…。少子高齢化や人口流出の影響でその流れが作りづらいから、ETIC.が支援をしているという状態なだけで、それぞれの地域でこの課題解決の生態系が維持できれば、本当はETIC.がやっていることって必要ないんです。」

―本来、企業というものは、自社のサービスを提供する範囲を拡大するため活動をします。しかしETIC.はそうではなく、自社のサービスが無くてもうまく機能する社会を目指して活動をしている、ということでしょうか。

「はい。今は、私自身ETIC.の一員として支援を『する』側として働いていますが、将来的には独り立ちして、学んだノウハウを生かして浜松で実践型インターンシップのような事業展開を始めます。それからは、ETIC.から支援を『受ける』側になって、次第にETIC.の支援無くとも事業が機能するようになっていくと、浜松という地域に『挑戦の生態系』が生まれた、ということになりますね。」

「地域を想う気持ちが連鎖して、ETIC.から各地域へと『挑戦の生態系』が拡がっていく。ETIC.には僕みたいに自分の地域に持ち帰るために学びに来る人も少なくなくて、毎年一人ぐらいは入ってきます。そして三年ここで学んでから、自分の地域に帰り、事業を始めていくんです。ETIC.は僕らを育成することで、『挑戦の生態系の構築』を進めているから…ある意味養殖とも言えますね(笑)」

NPOで働くということ

―最後に、NPOを働く場所として考えている人たちにメッセージをお願いします。

「NPOの良いところはみんなの目指す目的が一緒なところです。給与面など一般企業に比べたら見劣りする点もあるけど、働く仲間全員が『こういった社会を実現したい』という想いを持っているのは本当にすごいことです。『お金ではない価値に惹かれている』人が多い。」

「基本的にETIC.は新卒採用を行っておらず、中途採用がほとんどですね。それでも数年に一回は新卒でNPOに入ってくる人もいて、そういう人たちは学生のうちからインターンをして、その企業の目指す社会や仕事内容を理解している人たちです。何が言いたいかというと、NPOで働きたいと考えているのであれば、今からでも気になっているNPOにインターンをしてみるのがいい。もし地域系のNPOに興味があるのなら、ETIC.のプログラムにでも参加してもらえれば(笑)コミュニティも広がると思いますし、沢山の人たちが自分の好きなことに繋げてくれると思いますよ。」

ETIC.の仲間たちと

 

「NPOで働くこと(NPO法人ETIC.の場合)」要点まとめ

共通した「目指す社会」へのビジョンや想いを持つ人が集まっている。

お金ではなく、実現したい社会のビジョンを大切に仕事をする

基本、新卒採用はしていない。新卒で入社する人は、学生時代から事業を実施している目的意識が明確な人と、インターンをして企業についてよく理解している人

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世界一周、新卒でNPOに就職、自ら団体を立ち上げる…。杉山さんの行動力に、驚かされてばかりのインタビューとなりました。

「自分の中にある想いを大切に、行動し続ける」。難しいことですが、実はやろうと思えば誰でも出来ることの一つです。NPOで働きたい人も、そうでない人も、まずは何か一つ目標を持って行動し始めることが、なによりも大切なのかもしれません。

 

NPO法人ETIC. https://www.etic.or.jp/
地域ベンチャー留学 https://cvr.etic.or.jp/
株式会社ココロマチ https://www.cocolomachi.co.jp/

(取材・文・写真:黒崎ひとみ)