東京から電車で1時間半。
茨城県の中央部からやや北東に位置するひたちなか市は、県外の方が多く移り住んできた背景もあり、「移り住む人に優しいまち」と評価されてきました。自分の街に対する誇りや愛着指数である「シビックプライド」を持った住民数を示した地域別のランキングでは、県内第1位に選ばれています(2021(令和3)年時点)。
その一方で、人口減少・少子高齢化が進行しているという課題を抱えており、移住だけではなく現在はUIJターン先として選ばれるまちづくりに取り組んでいる街です。
そんなひたちなか市で、私たちは今回「ひたちなか BRIDGE プロジェクト」というインターンシップに参加をしました。全体では「メディアコース」と「観光コース」の2チームに分かれ、それぞれ課題と向き合いながら約3か月間、取り組んできました。
観光コースのメンバー6人は、現地でのフィールドワークを通じて魅力・課題について知り、「関係人口を増やす仕掛けづくり」をテーマに企画を考え、市長をはじめとしたひたちなか市の方々の前で発表を行いました。
この記事では、観光コースのメンバー6人が体験した本インターンのプログラムの内容と、最終発表会での発表内容についてお伝えします!
目次
ドキドキのオリエンテーション
オンラインで実施されたオリエンテーション。オリエンテーションではプログラムについての説明とテーマ・受入企業の紹介、ひたちなか市の方々によるトークセッションが行われました。応募が多く、オリエンテーション後にアンケートでの選考が行われると知らされていたため、プロジェクトに参加できるだろうかという不安を抱えつつ、緊張した面持ちでオリエンテーションに臨みました。
観光コースのテーマは「阿字ヶ浦周辺の観光資源の見直し、一年を通じた関係人口を増やす仕掛けづくり」。
テーマに囚われず、“参加者自身”が本当にやりたい・楽しめる企画を考えてほしいというお話を受け、難しそうだけど単に課題解決に向けた企画を考えるだけでなく、自分自身も楽しむことができたら面白そうだなという気持ちになりました。
私たち観光コースの受入企業は民宿『満州屋』の若旦那で『イバフォルニア・プロジェクト』の中心メンバーとして活動する小池伸秋さん。小池さんはコミュニティ&コワーキングスペースである『イバフォルニア・ベース』の運営も行っています。
トークセッションではひたちなか市に住んでいるから、Uターンしたからこそ感じるひたちなか市の魅力・課題について小池さんや戸板さんからお話を伺いました。
ひたちなか市の魅力と課題の一端を知ることができたオリエンテーション。選考を経て、プロジェクトへの参加が決定した観光メンバー6人はひたちなか市で行われる1泊2日のフィールドワークへ。現地を訪問し、実際に自分たちの目でひたちなか市の魅力と課題を体感しました。
1泊2日のフィールドワーク 知れ!ひたちなか
ひたちなか市で実施される現地フィールドワークの日がやってきました!
観光メンバー6人が顔を合わせる最初の日。観光コースのみんなと仲良くなれるかな、上手くやっていけるだろうかという不安と初めて出会う学生同士で一つのことをやり遂げることに対する楽しみな気持ちでいっぱいでした。メンバー内で自己紹介をした当初から和気あいあいとした雰囲気で、不安な気持ちは一瞬で吹き飛びました。
ひたちなか市出身者2名、ひたちなか市以外の県内出身者2名、県外出身者2名から成る観光コースのメンバー6人。出身も大学も違うけれど、最終発表に向けて頑張ろうと6人全員が気持ちを一つにしました。
自己紹介を終え、いよいよ現地フィールドワークに出発です!
1日目は参加者全員でひたちなか市内の様々な場所を見学しました。ひたちなか市に対しては、ネモフィラやコキアで有名な「ひたちなか海浜公園」のイメージを強く持っていました。実際に見てみると、自分たちが知らなかっただけで、海浜公園の他にも魅力あふれる場所がたくさんあると気づかされました。
特に印象に残ったのは、ひたちなか海浜鉄道。あまり乗る機会がないと話すひたちなか出身学生も多かったけれど、車内からは鉄道と地域を活性化しようという雰囲気が至る所に見られ、ひたちなか市に根付く鉄道なのだと実感しました。
また、「ホシイモノ(欲しいもの)は総て手に入る」という願いが込められ、黄色の鳥居が立ち並ぶほしいも神社も非常に印象的な場所でした。
1日目、最後の見学先は小池さんが運営する「イバフォルニア・ベース」。
「イバフォルニア・ベース」は『イバフォルニア・プロジェクト』メンバーの活動拠点であることに加え、地元の人も集まる場所となっています。ホワイトボードには「イバフォルニア・ベース」を訪れた人による様々な書き込みがあり、とてもにぎやかな雰囲気。施設ではテントサウナのレンタルができたりするなど、非常に面白いスペースだと感じました。
現地見学の後は「イバフォルニア・ベース」の2階で懇親会バーベキュー。「イバフォルニア・ベース」の2階は、阿字ヶ浦海岸が一望できる魅力的な場所でした。
懇親会ではとくに参加学生同士で、どのようにしてひたちなかBridgeプロジェクトを知り、なぜ参加しようと思ったのか、大学では学んでいることなどについて話をしました。その他にもみんなでマシュマロを焼いたり、手持ち花火をしたりと非常に楽しく、他の学生との仲を深めることができました。
宿泊先は小池さんが経営する民宿「満州屋」。緊張とワクワクから始まった1日の疲れを癒しました。
「満州屋」でも色々な話をして、1日で一気に距離が縮まった観光コースのメンバー。中には翌日からのプロジェクトについて明け方近くまで話をしていたメンバーも…??
夜が明け2日目がスタート!「若者」「継続的なイベント」「再訪意欲」
2日目は観光コースとメディアコースに分かれ、それぞれグループワークを行いました。
観光コースは阿字ヶ浦周辺を散策し、現地フィールドワークやひたちなか市に住んでいて感じたひたちなか市・阿字ヶ浦の魅力と課題を付箋に書いて共有するグループワークを実施しました。
阿字ヶ浦周辺の散策では「Ajigaura」と書かれたモニュメントやフォトスポット、アート作品などがあり、阿字ヶ浦を盛り上げようという取り組みが行われているのだと感じました。しかし一方で、どこかそんな取り組みがバラバラなイメージもありました。「地域を盛り上げていこう」という意識が、周辺の店舗を含めた阿字ヶ浦全体の共通認識にはできていないという意見がメンバー内で交わされました。
阿字ヶ浦周辺を散策した後は「イバフォルニア・ベース」でグループワーク。短い時間で付箋に魅力と課題を書き出し、付箋のグルーピングを行いました。
ひたちなか市の魅力として第一に挙げられたのはサツマイモや干し芋が特産品であること。また、阿字ヶ浦の魅力として真っ先に挙がったのは海があること。しかし、その海でのワクワク感が少ない、他の海との差別化が見られないといった課題もあがっていました。また、公共交通機関が行き届いておらず車がないと、観光や生活が難しいということもメンバーが感じた大きな課題の一つ。
ひたちなか市・阿字ヶ浦は魅力もたくさんあるけれど、様々な課題も抱えているのだとグループワークを通して改めて実感しました。
この日は誰をターゲットに、どんな企画を実施したいか、アイデアの大枠についても話し合いました。
意見が一致したのは「若者」をターゲットとすること。私たち学生自身も若者であるからこそ、「自分事」として捉えやすいのではないかと考えました。また、ひたちなか市・阿字ヶ浦を何度も訪れてもらうために単発的ではなく、継続的なイベントを実施した方が良いのではという意見も。
キーワードは若者、継続的なイベント、再訪意欲。どんな企画を実施したら関係人口の増加を実現できるのか、2日間の現地フィールドワークで感じた学生ならではの視点を基に、最終発表会までの2カ月間を走り抜けました!
空き家リノベ? クラフトビールづくり? それとも…?
現地フィールドワーク後は、ココロマチでのオフィスミーティングに加え、毎週1、2回のミーティングを重ね、関係人口の増加を実現するためにどのようなイベントを実施したら良いのかについて様々なアイデアを出し合いました。
最初に着目したのは空き家問題と若者(特に高校生)のコミュニティが少ないのではないかということ。
様々な学校に通う高校生の発想力やアイデアを生かしたリノベーションワークショップを行うことで、高校生のコミュニティを創出し、完成したその場所も最終的に若者に利用してもらえたら面白そうと考えました。
しかし、小池さんに阿字ヶ浦に空き家状況を伺ってみると、阿字ヶ浦は海沿いに位置しているため、雨風や塩害で建物が傷みやすく、空き家になった物件も比較的すぐ老朽化し取り壊しになってしまうため、空き家は少ないとのこと。このため、この案はボツに…。
次に考えたのはひたちなか市の新たな特産品をつくる長期的なイベントを開催すること。ひたちなか市出身学生の「お土産がいつも干し芋」「地元でしか楽しめない何かが欲しい」という意見に着想を得ました。
そこで考えたのは、捨てられてしまうさつまいもの皮を使った「クラフトビール」をつくること。
ひたちなか市には芋焼酎という特産品があるけれど、若者にとって焼酎はあまりなじみがありません。だから、年代に関わらず若者をはじめとして「誰でも飲みやすいクラフトビール」をつくれたら、クラフトビールをつくるイベントへの参加者、完成したクラフトビールを目的にひたちなか市を訪れる人という2つのルートから関係人口の増加を目指せるのではないかと考えました。
クラフトビールづくりについて考えた際には、実現可能性を調べるために、ひたちなか市の近隣にあるクラフトビール醸造所を訪問しました。
現在のクラフトビール市場の状況や、ビールの製造過程などについてお話を伺い、若者のクラフトビール需要は想定していたよりも少ないこと、市民を巻き込んでクラフトビールづくりをしようと考えた場合、実際に市民の方々が携われる工程はそれほど多くないことについて学びました。
若者にも楽しんでもらえるクラフトビールをつくりたいと考えていた私たちは、そもそも若者の需要が少ないことからクラフトビールづくりを断念…。
ここで行き詰った私たちは、改めて若者を巻き込んで継続的なイベントを開催する目的について一度立ち戻って考えることとなります。
若者を巻き込みたいと考えるのは、
- ひたちなか市を離れて就職・進学する若者が多いという課題があるから
- コミュニティの場をつくることによって面白そうなことが生まれるきっかけを生み出したいから
- ひたちなか市に住み続けたい、将来的に戻ってきたいと考える若者の増加にアプローチしたいから
という言語化がなされました。
そこで、ひたちなか市でコミュニティの場をつくるには何を用いて行うべきかについて、
- 「自由な発想で行う」
- 「長期的な繋がりを持つためのコンテンツになる」
- 「若者が好み、幅広い世代を通して共有できる」
という3つのルールを基に、改めてアイデア出しを行いました。
様々な案が出されましたが、最終的にインスピレーションを得たのは現地フィールドワークの2日目にメンバーの一人が日本酒を持って登場したこの写真。
日本酒といえば若者でも飲みやすい日本酒スパークリングがあったことから、ひたちなか市の特産品である芋焼酎を使った「芋焼酎スパークリングづくり」をしたら面白そうと考えました。新たな特産品の創出と、長期的な製造工程、そして若者が好きなものとして今回「お酒」が話題としてあがり、ピッタリのテーマと考えたからです。
芋焼酎スパークリングをつくる工程で人を巻き込み、コミュニケーション創出の場をつくる。工程の中でどのようなイベントを開催したら、コミュニケーション創出を実現できるのか、できるだけ具体的にイベントを企画・考案しました。
どんなイベントを企画したら良いかについて考える際、大切にしたのは菅原さんに教わった「cross-10」の考え方。
Cross-10とは「10人にすら刺さらないものはその先の多くの人には広まらない、10人に共感してもらえる企画を考えることができれば、その10人を起点に人々の共感を生み、さらに多くの人々に広めることができる」という考え方です。
コミュニケーションの場を創出するという目的から離れず、まずは10人に刺さるイベントとはどんなものだろうとメンバーそれぞれがたくさん悩み考え抜いた結果、ついに企画がまとまりました。企画がまとまるまでには大変長い時間がかかり、時間に追われながら資料の作成や発表練習を必死で行いました。
次はいよいよ成果発表会!私たちはどんなイベントを企画したのでしょうか。